エドウィン
ビハールが暗い気持ちで、部屋の隅の方からとても控えめな薄い雲を描き込んでいると、部屋の真ん中に扉が再び現れた。
「よっ! まーた失敗しちまったんだって? ビハール」
明るい声と共にやってきたのは、少し濃いめの金の髪で、両耳の上のあたりからのびる細い三つ編みをポニーテールと一緒にまとめている小柄な天使だった。その毛先は緩くウェーブがかかっていて長さは肩まである。
服はビハールと同じで、違うのは左胸のところに着けられている職と身分を現すブローチに付いているカボションの色。ビハールのは初心者、見習いを表す深い緑色でエドウィンのは中堅を意味する青い空の色だった。
「エドウィン…………!」
目に涙を潤ませビハールが立ち上がると、エドウィンは少々意地悪そうな笑顔をして言った。
「しょーがねーから助けに来てやったぞー!」
ビハールより一つ年上のエドウィンは、幼い頃からの知り合いで、仲の良い兄貴分で、二人で目指したこの職に、エドウィンは二年前から就いていた。
追いかけるようにしてやってきたが、背だけはぐんぐん抜いたものの、絵の力量もスピードも、未だエドウィンには追いつけず、ビハールは彼を心の底から尊敬している。
「あー泣くな泣くな! 誰にだって失敗はあるもんだ! お前の場合、ちょっとおっちょこちょいなだけだろう?」
目一杯手を伸ばしてビハールのクリクリした薄い金の短い巻き毛を撫でるエドウィン。
「でも……もうコレで三回目だから…………」
「試用期間が一ヶ月なのはわかってるだろう? それはよっぽどのことがない限り変更はない。終わるまでに挽回すりゃあ良いじゃないか!」
現に、昨日までは上手にこなしていたじゃないか、と言いながらエドウィンはビハールのぶちまけた白ペンキのところに、持ってきた筆の先を付けた。
「それにしても、今日のお前の空はすごく良い出来じゃないか?」
乾き切っていない|ペンキ《雲》は、エドウィンの操る筆でその形をどんどんと変化させていく。
「昨日までは……指示通り時間通りって事だけを意識してたから……」
一箇所に固まっていた物がどんどんと、ビハールの描いた雲と重なり合わさり、不自然ではない形へと変化していく。
「そうか! じゃぁ今日の空は、お前の本気の空か!」
「……うん……」
描き直しのできないこの作業は、時に大胆なアイディアと筆さばきが必要となる。
自分より小さな体で身の丈以上の筆を操るエドウィンは、まさにビハールの憧れる姿だった。