天使ビハール
「ビハールお前……! また失敗しよったな!」
「す……スミマセン神さまぁ……!」
バターン! という音と共に、開いた扉。飛び込んできた『神様』と呼ばれた人物(?)は、息を切らせながらそう言った。
そこは不思議な空間だった。何の壁も見当たらないのにドアだけが広い部屋の真ん中にポツンと立っている。
床一面には青いキャンバスのような物が広がっていて、ドアのすぐ前にはバケツが倒れ、ぶちまけられた白いペンキが……。
それを前に、背に羽生やした者が二人。
一人は、ながーい白髪白髭に白眉毛。白地に金の刺繍がうるさくない程度にそえられた、上品でゆったりとした服を着ている神と呼ばれた老紳士。
もう一人は青い目に、くるくるとした短い巻き毛の怒鳴られ萎縮している若い天使。
「まぁ良い……ちょうどそろそろ時間じゃ。交代のエドウィンが来るまでここから1番遠くの場所をやっていなさい……」
エドウィンはこの職のベテランで、若い天使はこれまでにも色々教わったり、失敗をカバーしてもらったりしていた。
「お主は休憩に入る前、ベテラン天使の彼がコレをどう回復させるか見ていきなさい…………わしは下界の天候を司る部署に謝罪に行ってくるから…………」
長い毛でその表情はよく見えないが、明らかに疲弊した雰囲気の神様に、
「……申し訳ありません……!」
そう言って若い天使、ビハールは深く頭を下げていた。
「エドウィンの作業をよく見て学ぶように……」
神様ががっくりと肩を落としながら扉から出ていくと、扉は消え青いキャンバスと、ビハールが誤って蹴り飛ばしたバケツと零れ出た白いペンキが残される。
「この部分まで頑張って描いてきたのになぁ……」
自分のやらかしたこととはいえ、零れたペンキを見るとため息しか出てこない。
毎日毎日、交代しながら絶え間なく続けなければならないこの仕事は、下界の天気を、描いた絵によってコントロールしていくというもの。
『絵心』と『描くスピード』が重視される仕事で、早い段階で『絵心』の方をクリアしていたビハールは、十日前にようやくそのスピードが規定に達して、一ヶ月の試用期間にこぎつけたのだった。